2022.12.22
注目のクリエイターに、既存の枠にとらわれない表現を引き出してもらうことで、自己表現の可能性を広げていく新企画「THE CREATORS」。今回は新世代ギターポップバンド・Laura day romanceの4人をゲストに迎え、ヘアメイクアップアーティスト木村一真さんのプロデュースで新たなアーティスト写真を撮影。繊細で複雑な色合いの音楽を奏でる彼らからインスパイアされた、新ビジュアル&インタビューをお届けします。
新ビジュアル制作前のLaura day romance。左から、ドラムの礒本雄太さん、ボーカルの井上花月さん、ギターの鈴木迅さん、ギター&ボーカルの川島健太朗さん
架空の街をテーマにした作品から、日々の生活を丁寧にすくいとった一曲まで、短編小説のように作り込まれた世界観を歌うギターポップバンド、Laura day romance。2017年に結成して以来、フェス出演や単独ライブの開催、アパレルや映画とのタイアップなど、活躍の場を広げています。
「ひとつのジャンルに偏らず、それぞれが影響を受けた音楽や映画など、色々な要素を入れて新しい世界を形作るのがLaura day romanceの表現。一色ではない複雑なカラーと、誰にでも届くようなポップさを大事に、多様な音楽の橋渡しのような存在になれたら」。そう話す彼らが大切にしている「Laura day romanceらしさ」を、木村さんの手で、新たなアーティスト写真として表現していただきました。
――ミュージシャンのヘアメイクを多く手がけている木村さんですが、今回の企画にあたってどんなことを考えましたか?
Laura day romanceの4人が持つ“ムード”みたいなものを楽曲や本人たちから感じ取って、彼らに寄り添うようなメイクをしたいなとまず思いました。アーティスト写真ってそのときの時代感だったり、その人たちの気分をビジュアルで伝えてくれるものだと思うので、今回もそれを表現できたらいいなと。もちろんLaura day romanceのイメージだけじゃなく、僕から見た彼らの魅力を新しく引き出せるようなものを目指そうと考えていました。
――そういったバンドのムードみたいなものは、どうキャッチしていったのでしょう?
最初は音楽やライブ映像、過去の写真などを見て探っていきました。彼らの音楽を聴いて感じたのは、優しく語りかけるような雰囲気の中にも、何か考えさせられるようなテーマや、人生は甘いだけじゃないっていう現実的な目線があること。ただ優しいだけじゃなくて、伝えたい思いみたいなものがしっかりあるのだなと思いました。
撮影前にボーカルの井上花月さんが僕のアトリエを訪れてくれたのですが、そこで本人と話したときの印象も音楽と通じるところがあって。すごく柔らかいキャラクターだけど、アトリエに並んでいる本をじっくり観察していたりとか、しっかりものを見ている感じがしたんです。そういう雰囲気を感じとるようにしていました。
――Laura day romanceの4人にお聞きします。今回の企画を受けて感じたことや、新しいビジュアルへの期待感みたいなものはありましたか?
井上:私はすごく嬉しかったです。メイクとか音楽って、自分の好きなものをそこで表現できるという意味では、似ている部分があると思うんです。私自身も最近はメイクにはまっていて、お化粧ひとつでこんなに表現の幅が広がるんだなっていうのを感じていたし、他のメンバーにもメイクに興味を持ってほしいなと思ってました。
礒本:僕らは撮影のときも髪や肌を少し整えるくらいで、しっかりメイクするっていうのは初めてのことだったので、最初は「自分たちもやるの?」っていう戸惑いはありましたね。
川島:メイクに対する戸惑いはあったけど、ヘアメイクをしてくれるのが木村一真さんだと聞いて、すごく楽しみだったんです。僕は木村さんと同じサロンにいた美容師さんにずっと髪を切ってもらっていたので、間接的に木村さんのことは知っていて。「この人に任せれば、きっとかっこよく仕上げてくれるんだろうな」って想像していました。
鈴木:これまでアーティスト写真は自分たちでプロデュースしていたので、今回はそういう発想の外に連れていっていただけるような期待感がありました。どういうメイクをするんだろうっていう怖さがありつつも(笑)、新鮮さやワクワクが大きかったですね。
――木村さんにお聞きします。Laura day romanceの表現をビジュアルに落とし込むなかで、具体的にどんなメイクコンセプトを作っていきましたか?
全体的なポイントはカラフルなアイメイクですね。KATEらしいカラーバリエーションを活かしたかったのもありますが、僕がLaura day romanceの音楽に感じた、優しいだけじゃない現実的な目線や伝えたい思いっていうのを目もとのメイクに宿す形で表現しています。川島さん、鈴木さん、礒本さんには一色ずつポイントカラーを、井上さんにはメンバーに使った色味を含む、さまざまなカラーのアイシャドウをグラデーションのようにのせました。
――ボーカルの井上さんに、メンバーをイメージした色味を重ねた理由は?
Laura day romanceは、ボーカルが中心というよりも、それぞれが小さい花を持っていて、花束のようにお互い寄り添っているイメージがあるんです。だから、それぞれの色や思いを井上さんが歌うように、メイクも全員で表現できるようなものがいいと思って、こういう色の使い方にしました。何色を使うかってことにはそこまで意味はなくて、全体的なカラーバランスを意識しています。カラフルだけどバラバラではなく、ひとつになってより輝く。そんな多彩な彼らの魅力を表しています。
多彩に織りなす音楽をカラーメイクにのせて
一色では表せない複雑なカラーを持った音楽性を、目もとに散りばめたアイシャドウ「ザ アイカラー 051、303、P204、M108、P209、056、M102」で表現したアイメイク。メンバーに使用した色味を含む、さまざまなカラーパレットを集合させたシャドウ使いは、多彩な「色」をボーカルにのせたLaura day romanceの音楽とマッチする。
A. ザ アイカラー 051(上目頭、G303の上に使用)
B. ザ アイカラー G303(下まぶた真ん中に使用)
C. ザ アイカラー P204(上まぶた真ん中に使用)
D. ザ アイカラー M108(二重幅+下目尻 ※アイライナーを使わない代わりに使用)
E. ザ アイカラー P209(上目尻~眉毛までに使用)
F. ザ アイカラー 056*(下目頭に使用)
G. ザ アイカラー M102(056の上に使用)
目もとを立体的に魅せるギミック
いくつものアイカラーを繊細に重ねた目もとには、アイライナーの代わりにブルーのアイシャドウを目のキワにのせると、強すぎず柔らかい印象に。また、グリッターカラーで輝きを加えているのもポイント。キラリと光るテクスチャーが目もとに立体的な奥行き感を生む。
カラーバランスを意識したオレンジリップ
目もとの色味を活かすために、リップはオレンジカラー「リップモンスター 14」で優しく仕上げるのがポイント。このとき、唇の輪郭をぼかすように塗ると、より柔らかい印象に。
ヘアスタイルを活かした粋なアイメイク
長い前髪と落ち着いた雰囲気を活かし、モスグリーンのアイシャドウ「ザ アイカラー P217」をさりげなく見え隠れさせた渋みのあるカラーメイクに。赤やイエローといった彩度の高いカラーではなく、髪の色に近い暗めのトーンを選び、やりすぎない粋なアイメイクが完成。
目もと以外はベースを整える程度で色味を抑えつつ、唇には少し血色感のある「リップモンスター 03、05」を混ぜて塗ることで、アイメイクのみが浮くことなく自然な仕上がりに。
優しくまろやかな眼差しに青をひとさじ
柔らかな印象の目もとに、あえてブルーのアイシャドウ「ザ アイカラー M108」でアクセントをつけたアイメイク。
全体にのせるのではなく、目尻にのみポイントでぼかすように入れると強すぎずまろやかな雰囲気に。顔全体の色味のバランスをみて、リップは塗らずに仕上げている。
彩度の高いカラーで力強い印象の目もとに
メンバーで唯一、前髪を上げて額を出したスタイルのため、肌の色に馴染み、眉や目の印象の強さにマッチする暖色系のアイシャドウ「ザ アイカラー M101」をチョイス。
ラズベリーカラーの血色感を下まぶたの目頭にじんわりと滲ませるようなイメージでのせると、どこか生っぽさを感じる「かっこいい」表情が生まれる。
――Laura day romanceの4人にお聞きします。今回、木村さんのメイクで新たなアーティスト写真を撮影して、どんなことを感じましたか?
井上:木村さんがLaura day romanceをイメージして色味をたくさん使ってくださったので、私たちが表現したい「多様な要素を取り入れた音楽」っていうのがちゃんと伝わっているんだなって感じましたね。メイクだけじゃなく、撮影空間や衣装にまで曖昧で複雑なカラーがたくさん混ざっている感じが、すごく私たちらしいところ。このアーティスト写真を使いたいなと思っている1月の単独ライブが「SWEET VERTIGO(甘い目眩)」というタイトルなのですが、目眩がするようなカラフルで幻想的な世界観もマッチしていて嬉しいです。
川島:目もとに色を使うといっても、80年代みたいなビビッドな派手さではなく、さりげなく映えるポップな感じがバンドのカラーとフィットしていて。新鮮さもありつつ、すごく絶妙なところをついてくれたなと感じました。
礒本:今までのアーティスト写真はそのときのバンドのブームというか、気分が表れていたと思うんですけど、今回はまた違う目線ですよね。こうやって客観的に自分たちを捉えて、表現の仕方を見つめ直すっていうのも面白いこと。これからのLaura day romanceを考えるいいきっかけになったような気がします。
鈴木:いつもの順番としては音源のあとにアー写を作るのですけど、今回は先にビジュアルを作っている状態なので、普段とは逆なんですよね。だからこの雰囲気を音楽にフィードバックできる可能性もある。それくらいみんなが気に入る一枚になったと思います。
――それぞれのアイメイクに使われた「色」に対してはいかがですか?
礒本:メイクのときに木村さんに「君は何色担当なの?」って言われて、考えたこともなかったのでちょっと焦ったんですけど(笑)、自分では暗い色が合うと思ってたんですよ。でも、逆に木村さんはけっこう鮮やかな青を使ってくれて、そういうギャップも面白かったです。普段イメージしてない色が入ると、気持ちも変わってくる気がしますね。
鈴木:僕は結構がっつりグリーンの色味が入っているので、前髪を上げてメイクをしているときは「すごいな」と思っていたんですけど、前髪を下ろしたら意外と馴染んでいて。普段から、こういうさりげない仕掛けがあるものがすごく好きなので、リンクを感じて嬉しかったです。
川島:個人的な話になってしまうんですけど、僕の兄が赤い色が好きだったので、その先入観からか「赤は自分の色じゃない」って気持ちがずっとあったんです(笑)。でも、いざ目もとに赤い色が入ると意外とナチュラルだし、歌舞伎の隈取りを思わせるような部分もあって、テンションが上がっていくような感覚になりました。
井上:私もこんなにたくさん色味が入るメイクって自分には似合わないんじゃないかと思っていたんですけど、実際は普段使いできそうなくらい自然で、嬉しい発見でした。3人の色味が私のメイクに入っているのも、それぞれの個性が重なっている音楽性とリンクしてくる感じで面白いなって。木村さんはラフな雰囲気と洗練された感覚が同居していて、「この人に任せたいな」と思えるヘアメイクアップアーティストさん。こういう洗練されたメイクの感覚は自分たちだけでは表現しきれないので、これから取り入れていきたいですね。
――木村さんにお聞きします。今回の企画を終えてどんなことを感じましたか?
井上さん以外のメンバーには撮影当日に初めて会ったんですけど、みんなリラックスしていて、「メイクされてる感」とか「撮られてる感」みたいな硬さもなく、自然ないい表情を作ってくれた感じがします。空間にすーっと馴染んでいくところがLaura day romanceっていうバンドの魅力のひとつなのかもしれないですね。
彼らの音楽を聴いたとき、「すごく色々な要素があって、人によって違う感じ方ができる作品だな」と思ったんですが、そういう「人それぞれのスタイルでいい」っていう感覚はKATEの「no more rules.」にもつながる感じがしました。ルールはなくて、好きな色でいいんだよっていう。だから僕も彼らが今までやってこなかったカラフルなメイクっていうのに挑戦できたし、空間や衣装も含めて新しい表現が引き出せたんじゃないかなと思います。
木村一真
ヘアメイクアップアーティスト。都内のサロンを経て、2020年に駒場にヘアアトリエ「捨迦刃庭」を、2022年には外苑前に「skavati」をオープン。アーティストのミュージックビデオやアーティスト写真、俳優の撮影仕事を中心に、ブランドルック、エディトリアル、広告などさまざまな媒体でヘアメイクを手がける。
Laura day romance
2017年結成の男女ツインボーカルバンド。2018年にEP『herfavorite seasons』が発売されるや否や各店舗で売り切れが続出し「出れんの!? サマソニ!?」に選出されSUMMER SONIC2018に出演。2019年2月に開催された自主企画イベント「Blanket ghost Thanksgiving」にはshowmore、ベランダを招きソールドアウト。2020年6月にファーストアルバム『farewellyour town』を、2022年3月にはセカンドアルバム『roman candle/憧憬蝋燭』をリリース。洋楽に影響を受けつつも日本的なポップさを持ち合わせ、アートや映画のようないつの時代も愛される音楽を奏でる。2023年1月29日に単独ライブ『SWEET VERTIGO 2023』を開催予定。
Hair&Make:Kazuma Kimura(skavati)
Model:Kazuki Inoue,Jin Suzuki,Yuta Isomoto,
Kentaro Kawashima(Laura day romance)
Photo:Yui Fujii
Stylist:Sho Sasaki
Text:Mayu Sakazaki
Edit:Junko Inui,Rei Yanase,
Mizuki Katsumata,Hiroto Okazaki(Roaster)