2022.12.15
注目のクリエイターに、既存の枠にとらわれない表現を引き出してもらうことで、自己表現の可能性を広げていく企画「THE CREATORS」。ヘアメイクアップアーティスト・木村一真さんが今回のテーマに選んだのは「自分」。第1回目の「粋」、そして第2回目の「プリンシプル」で表現した“理想の人物像”を、今回は自分自身に投影した木村さん。セルフメイクを通して見えてきた“自己表現”への思いとは?
――アーティストや俳優など、さまざまな「顔」と向き合ってきた木村さんが、今回「セルフメイク」を選んだ理由はなんですか?
いちばん大きな理由は、“挑戦”です。僕が仕事や人生において大事に思っていることを、自分自身にセルフメイクで反映させたらどうなるのか。いつもヘアメイクの仕事のなかで、その人にとっての新しい表現や魅力を引き出そうと挑戦を続けていますが、やっぱり今でも「自己表現ってなんだろう」と悩むことも多くて。だから、今回のセルフメイクを通して、その可能性を探ってみたかったんです。僕にとってメイクは仕事であり表現でもありますが、メイクに限らず、人生において“自分にとって新しいことに一歩踏み出してみる”っていうのは、とても大切なこと。それを身をもって体現できたらいいなと。
あとは単純に、名を残してきた芸術家たちはみな、自画像で表現しているイメージがあって。かっこいいから真似したいなと思い、シンプルに自分自身で表現してみたのもきっかけですかね(笑)。
――それは、自分と向き合っていくような作業なんでしょうか。
そうかもしれないです。まず「自分ってどういうもので構成されているんだろう」って自身を見つめなおすことから始めたんです。1記事目、2記事目では「粋」「プリンシプル」という自分の中の2大キーワードをテーマにしましたが、実際そういうものが僕に備わっているかって言われると正直わからなくて。でも、その2つのテーマをセルフメイクに落とし込んでみれば、少しでも理想の自分に近づけるかもしれない。そういう「自分探し」を、今回は僕自身の挑戦としてやってみようと思いました。
――今回のセルフメイクは、具体的にどんなイメージで作っていきましたか?
今回は右半分の顔と左半分の顔で、2つの異なるメイクテーマを対比させています。どうしてかというと、1人の人間の中には「陰と陽」のような二面性があると僕は思っていて、それをビジュアルで表現したかったからです。でも、人の二面性って実はそれぞれが混ざり合っていて、はっきりと分けることはできないものだと思うんです。だから2つを極端に違うメイクにはせず、よく見ないと気づかないくらいの差に仕上げています。
――その2種類のメイクが、1記事目・2記事目でもメイクテーマとして出てきた「粋」と「プリンシプル」。これまでの記事でも、今回の企画でも、木村さんが思う“理想の人物像”を表現しているメイクですね。
そうです。写真右側のメイクが「粋」、そして左側のメイクが「プリンシプル」をあらわしています。僕は「諦めの美学や潔さ」を持っている人が「粋」だと感じるので、右側に関しては、目の下のクマや素肌の色ムラをあえて活かしていくという「隠さない潔さ」をソリッドなメイクで表現しました。
「プリンシプル」の方は、「自分のスタイルを持った、芯のある人」の内面の強さを表現したかったので、肌の内側からにじむような血色感をメイクで演出するイメージで作っています。チークやリップに暖かみのあるカラーを使うことで、丸みを帯びたエレガントな柔らかさを出しているのもポイントですね。
素肌の陰影を活かしたシャドウ使い
「人の目を気にせず、自分はこれでいい」という諦めの美学は、木村さんが思う「粋」のエッセンス。今回の「粋」なセルフメイクでは、その美学を、“隠さない潔さ”で表現。目の下のクマや、素肌に浮かび上がる色素の濃淡を隠すのではなく、逆に活かすようなアイシャドウとシェーディングで、自分らしい自然な美しさを作る。クマや色ムラをネガティブにとらえず、メイクでギミックをプラスすることで新たな魅力が生まれた。
肌をふんわりと染める柔らかい赤み
自分の中にある芯の強さやスタイルを表現した「プリンシプル」なセルフメイク。柔らかな膨らみを感じるピンクのチークやリップで、暖かさや内側からにじむような血色感を演出する。こめかみから頬に向かってふんわりと色をのせ、耳たぶにも少しチークを入れることで顔全体に奥行き感が生まれ、どこか艶のある表情に。揺るぎない“私”を持っている、成熟したエレガントな美しさを表現。
A. ザ アイカラー CT510(目頭下、目尻に使用)
B. ザ アイカラー SG608(上まぶた全体に使用)
C. ザ アイカラー SG610(目のキワに使用)
D. カラーシェーディングバー01*
――今回、撮影を通してどんなことを感じましたか?
やっぱり「メイクって面白いな」って心から思いましたね。セルフメイクをしてカメラの前で撮られるって、ヘアメイクアップアーティストとしては普段なかなかないことなので、ちょっと違和感があるんですよ。でも、「この挑戦をちゃんと自分のものにしなきゃいけない」とか、「自分を思いっきり表現するためにはどうしたらいいんだろう」とか、メイクや撮影中に色々と試行錯誤していって。
「これが正解」っていうものはないんですけど、自分なりに自信を持って表現できたことが、嬉しかったですね。メイクが自分を動かしてくれたというか。この企画を通して「かっこいい」ってなんだろうと改めて考えたことで、すごく進化できた感覚があります。
――どんなふうに進化したなと感じますか?
僕はもともと人と目を合わせて話すのが苦手だったんですが、自分なりに「自己表現」に向き合って、それが少し変わってきた気がします。理想の人物像をメイクで自分に投影していくという「自分探し」ができたことで、見た目はもちろん内面もその理想に近づきたいと思えました。みなさんがメイクや自己表現を楽しんだり悩んだりしている感覚や、「メイクをすることでこんなにマインドが変化したり、自信につながるんだな」ってことまで、身をもって体感できた。メイクの面白さや可能性、そしてヘアメイクという仕事の価値も、改めて感じることができました。
――最後に、自分のスタイルが見つからなかったり、「自己表現」に悩んだりしている人へ、木村さんが伝えたいことはありますか?
誰かにヘアメイクするときはいつも「初めまして」のつもりで臨んでいて緊張するし、その人の本質的な魅力を見極めようと試行錯誤しています。僕は今33歳なんですけど、この歳になっても毎回のメイクを通して、新しい表現に挑戦し続けている。だからずっともがいてるし、30代になっても昔と変わらず「自己表現」に悩んでいるんですよね(笑)。でも、「何かを表現しよう」とか「挑戦しよう」っていう姿勢を持つことが大事だから、悩むことをネガティブにとらえず、ポジティブに肯定してあげてほしい。
今回、自分の人生哲学みたいなものをヘアメイクで表現していく挑戦を通して、そういう姿勢が伝わればいいなと思いました。「自己表現」に挑み続ける、求め続けるってことを大切に。自分自身や周りを否定するんじゃなく肯定して、いいものが作れたら最高ですから。
セルフメイクを通して、「なりたい自分」を追求し、挑戦し続けることの大切さを伝えてくれた木村さん。次回は、新進アーティストをゲストに迎え、ヘアメイクで彼らの「アーティスト写真」をプロデュースする企画をお届け。木村一真×アーティストのコラボレーションをお楽しみに。
木村一真
ヘアメイクアップアーティスト。都内のサロンを経て、2020年に駒場にヘアアトリエ「捨迦刃庭」を、2022年には外苑前に「skavati」をオープン。アーティストのミュージックビデオやアーティスト写真、俳優の撮影仕事を中心に、ブランドルック、エディトリアル、広告などさまざまな媒体でヘアメイクを手がける。
Hair&Make:Kazuma Kimura(skavati)
Photo:Koichiro Iwamoto(model),
Yui Fujii(creator)
Stylist:Sho Sasaki
Text:Mayu Sakazaki
Edit:Junko Inui,Rei Yanase,
Mizuki Katsumata,Hiroto Okazaki(Roaster)