2022.12.08
注目のクリエイターに、既存の枠にとらわれない表現を引き出してもらうことで、自己表現の可能性を広げていく企画「THE CREATORS」。前回に続き、ヘアメイクアップアーティスト・木村一真さんをフィーチャーする今回は、「no more rules.」に呼応するメイクアップ&ビジュアルをお届け。“自分に嘘をつかない表現”を大事にしてきたという木村さんに、ルールに縛られず、自身を肯定するために大切なことをお聞きします。
――まず、KATEが掲げる「no more rules.」というコンセプトに対して、木村さんが感じることを教えてください。
ルールってひとつじゃなくて、社会のルールと、自分のルールっていうのがあると思うんです。そういうものを大事にして生きている人もいるだろうし、それに縛られないということも大切だし、僕はどちらも肯定したいと感じました。今って誰かを否定するばかりの社会だから、もう嫌になっちゃって。それよりも、まずは自分自身や相手を全力で肯定するほうを選びたいんです。
――自分を肯定することができないと、周りに対してもなかなか難しいですよね。
そうですね。“周りを否定することで自分を肯定する”っていう状態になってしまうよりも、どちらにも「いいね」と言えるほうがいいじゃないですか。だから僕が思う「no more rules.」っていうのは、それぞれのスタイルを肯定して、自分が好きなように、やりたいようにやること。前回の記事で、人からどう見られるかを気にせず「自分はこれでいい」と諦められる潔さが「粋」だと感じると話しましたが、そういう姿勢にもつながってくると思います。
ヘアメイクをするときも、例えば「この人の顔のマイナスな部分をメイクで変えよう」みたいな、ネガティブから入る提案は僕はしません。「全部いいじゃん」と肯定できるから、それをどう伸ばしていくか、と考える。また自分自身に対しても、メイクをするときの感覚やチョイスが正しいと思っているからこそ、迷ったりすることもないんです。
――今回のメイクテーマとして木村さんが選んだのは「プリンシプル」というキーワード。これは、「no more rules.」とどうつながっていますか?
自分や周りを肯定して「それぞれのスタイルを大事にする」というのが、僕が思う「no more rules.」。じゃあスタイルがある人ってどういう人だろう、と考えたときに浮かんできたのが「プリンシプル(Principle)」というテーマです。今回はそこからメイクのイメージを膨らませていきました。
――「プリンシプル」という言葉には、原理、原則、主義、信条などの意味がありますよね。つまり、その人が何を大切にしているかっていうことなのかなと思うのですが、木村さんが思う「プリンシプル」ってどういうものでしょうか?
最初は白洲次郎の『プリンシプルのない日本』という本を読んだのがきっかけで、この言葉を知ったんです。八方美人とか他力本願とか、そういう自分を持たない生き方を指摘するような内容で。読んでいるときはよく分からなかったんですが、実際に「プリンシプル」という言葉が生まれたイギリスに行ってみたりして、なんとなく感覚がつかめてきた気がします。
言葉にするのは難しいですが、僕は「プリンシプルを持った人」って、前回の記事でテーマにした「粋な人」に共通点を感じるんですよね。人の目を気にしたり自分に嘘をついたりすることがなく、その人らしいスタイルを大事に、まっすぐに生きる人。そういう芯の強さを、メイクにも落とし込んでいきました。
――今回は俳優・南琴奈さんをモデルに、「プリンシプル」をメイクで表現していただきました。具体的にはどんなイメージで作っていきましたか?
「プリンシプル」をメイクに落とし込んでいくなかでイメージしたのは、しっかりと芯があって、その人らしいバランスを保った美しさがあること。その美しさを僕なりに紐といていくと、どこか余裕のあるエレガントさだったり、大人っぽい艶のある人物像が浮かんできました。まっすぐで揺るぎない“私”を持っていて、強さも抜け感も感じさせるような、自分が今「いいな」と思う佇まいを表現しています。
具体的には、陰影をつけて骨格をしっかり出すようにしたり、奥行きのある大人っぽい目もと、輪郭のはっきりした唇とか。ヘアに関しては、全体に艶を出すことと、顔を隠しすぎない前髪のバランスがポイントですね。少し抜け感を作りました。
――今回、モデルとして南琴奈さんを選んだ理由は?
彼女は今16歳でまだ高校生なんですが、中学生の頃にはもう女優やモデルとして「自分の道を進もう」っていう選択をしているんですよね。まだ顔つきや表情には幼さみたいなものが残っているのに、「何かを表現したい」っていう葛藤やモヤモヤがすでに彼女の中にはあって。そんな人だからこそ、こういう大人っぽい強さのあるメイクや人物像を表現してくれるんじゃないかと思ったんです。実際にヘアメイクや撮影を通して作品を作っていくなかで、想像を超えていいものになったなと感じました。
“陰影と奥行き”のアイライン
アイラインはブラックではっきりと引くよりも、ブラウン系のカラーを選んで少し長めに引いていくことで、強すぎないエレガントな奥行きを表現。普段のメイクに取り入れるときは、あまり角度をつけず、骨格に合わせて横にすっと引くように描くと品のある目もとに。
ニュートラルカラーで目もとに深みを
下まぶたのアイシャドウは、涙袋にハイライトを入れがちなところを、あえて少しトーンを落としたグレーやベージュを使うのがポイント。下まつ毛の隙間を埋めるようにアイシャドウをのせ、綿棒で涙袋にむかってぼかしていくと、ダークすぎないクールな目もとに。ハイライトでもローライトでもない深みのある色が、落ち着いた印象を与えてくれる。
はっきりした輪郭の唇が語るもの
リップメイクは、下唇の中央と口角に少しローライトを加えると、唇の輪郭がはっきりした大人の雰囲気に。このときローライトは、下唇中央から口角へはつなげず、それぞれポイントで入れていくのがコツ。そうすることで口もとに柔らかい膨らみや艶のある色気が生まれる。色味はあえて赤ではなくオレンジやピンクを選ぶことで、強すぎない絶妙なバランスを表現。
A. ザ アイカラー 024(下まぶた黒目下部分に使用)
B. ザ アイカラー 057(下まぶた目頭部分に使用)
――南琴奈さん、今回のメイクでどんなことを感じましたか?
「プリンシプル」という言葉は今回初めて聞いたのですが、だからこそ新鮮な感覚で表現方法を探ることができました。アイラインからリップまで、それぞれのパーツの細部に木村さんのこだわりが宿っていて、とても勉強になりましたね。
特に印象的だったのはアイメイク。アイシャドウのグラデーションで目もとの見え方が変わったことで、今までにないクールな表現で撮影ができたと思います。フォトグラファーさんにも表情などを褒めていただき、初挑戦ながら楽しい撮影でした。
今回は「プリンシプル」をテーマに、“自分自身を肯定する強さ”を秘めた人間像を表現してくれた木村さん。次回はこれまでのメイクテーマをベースに、自分自身をモデルにした“セルフメイク”を披露。木村さんが培ってきたスタイルを、自ら体現するビジュアル&インタビューをお楽しみに。
木村一真
ヘアメイクアップアーティスト。都内のサロンを経て、2022年に外苑前にヘアアトリエ「skavati」をオープン。アーティストのミュージックビデオやアーティスト写真、俳優の撮影仕事を中心に、ブランドルック、エディトリアル、広告などさまざまな媒体でヘアメイクを手がける。
南琴奈
埼玉県出身の俳優・モデル。2020年にデビュー後、Mr.Children『Documentary Film』のMVで話題となり、その後も、Official髭男dism『MIXED NUTS』、Vaundy『走馬灯』など多数のMVに出演し、次世代女優・モデルとして大きな注目を集める。是枝裕和監督の初Netflix作品『舞妓さんちのまかないさん』(2023年1月12日配信)に出演するなど、ドラマやCM、広告への出演など多岐にわたり活躍を見せている。
Hair&Make:Kazuma Kimura(skavati)
Model:Kotona Minami
Photo:Koichiro Iwamoto(model),
Yui Fujii(creator)
Stylist:Sho Sasaki
Set Design:Yusuke Yamagiwa
Text:Mayu Sakazaki
Edit:Junko Inui,Rei Yanase,
Mizuki Katsumata,Hiroto Okazaki(Roaster)
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