――GYUTAEさんは2018年からYouTubeでメイク動画の発信を始め、最近は活動の場をどんどん広げていますよね。メイクをするようになる前と今で、生き方や考え方はどう変化していますか?
僕は14歳からメイクを始めたのですが、それまではコンプレックスだらけで、自分のことが大嫌いでした。自分に自信がなくて誰かを妬んでしまったりと、悪循環に陥っている自覚もあったんです。でも、メイクをしたことで仕上がりや技術を褒めてもらえるようになって、やっと自分を肯定することができた。“自分って案外捨てたもんじゃないかも”って思えたんです。僕の動画を喜んでくれる人がいることが、僕自身を救ってくれる。メイクを発信してから、本当に自分を好きになれました。
――GYUTAEさんにとって、“自己表現”はどんな意味を持ちますか?
僕にとっては、メイクやファッションはもちろん、言葉選びや行動すべてが自己表現です。誰かの目を気にして自分の意見や個性を抑えていると、自分自身からどんどん「自分」が離れていって、気づいたら何をしたいのかわからなくなってしまう。だから、自己表現って“自分を愛すること”なのかなって思うんです。
――自分を愛するって、なかなか難しいことでもありますね。
そうですね。簡単に聞こえますけど、僕自身もすごく難しかったです。今も自己嫌悪に陥ってしまうときがありますし。だからこそ、日々の生活でなるべく努力するようにしています。
自分を好きになるためには、“自分は何がしたいのか、何が幸せなのか”っていうことを見極めて、内面に向き合うことが大切。僕は何をしていても自分を客観視する癖があって、「この人とは本音で話せるかも」とか、そのとき自分が感じていることに敏感なんです。そうしているうちに、本当に必要なものや大切にしたいことが絞られてきて、どんどん自由になれる。
内面的な話ってあまり他人にはできない方も多いと思いますが、僕はそういう話が好きで。友達と喋っているときも、「そのときどう思っていたの?」とか「なんで自分はそうしたんだろう?」って分析して、内面にアプローチしていくんです。そうして初めて気付くことも多いし、自分をよく知ることが、自分を愛することや自己表現へとつながっていくんじゃないかなと思います。
――最初に“メイク”に惹かれたときのことを教えてください。
当時、憧れていた韓国のアーティストがメイクでヴィジュアルをがらりと変えたのを目にして衝撃を受けたんです。それですぐに母親の黒いアイシャドウを借りてつけてみたら、コンプレックスだった小さい目がメイクをしたことにより大きくなった印象を受けて、“メイクってこんなに顔の印象が変わるんだ”って感動したのを今でも覚えています。
それから、母がメイク好きだったことも、興味を持ったきっかけのひとつですね。そこからどんどんメイクが好きになって、勉強や研究をしていったことで今に至ります。
――メイクのテクニックやインスピレーションを独学で研究していくのは、すごく大変なことですよね。
そうですね。アイテムやハウツーなど、基礎的なことは海外のメイク動画を見て、試行錯誤しながら学んでいきました。顔の立体感を出すコントゥアリングや目を大きく見せるようなカットクリースといったメイク方法、骨格まで変わって見えるような“変身メイク”がすごく面白かった。
メイクってアートに近いと僕は思っていて。顔をキャンバスにして、そこに好きな色を塗っていくような感覚なんです。メイクを使って表現がしたいから、メイクアップ“アーティスト”っていう言い方が自分としてはしっくりくるというか。今の自分とは異なる、新たな自分を表現していく。本当に、絵を描くようなイメージなんですよ。
――そうやってメイクで表現していくことを通して、誰かに何かを伝えたいという気持ちはありますか?
そうですね。メイクを勉強していくうちに感じたのは、メイクって本当に、めちゃくちゃ楽しいってこと。とくに女性はそうだと思うのですが、メイクは“しなきゃいけないこと”みたいな風潮があるじゃないですか。だからいつの間にか義務のようになって、ワンパターンになってしまったり、“本当に似合うメイク”が分からないっていう人も多いと思うんです。もちろんしたくない人はしなくたっていい。でももしメイクをするんだったら、少しでもその時間を楽しんでほしいなって。だからメイクの楽しさを伝えるために、“変身メイク”をはじめ、色々な方法を発信しているんです。
すっぴんでも、メイクしていても、自分が自分であることに変わりはないから、“いちばん好きな自分”に近づけたらそれでいい。僕自身はメイクをしている自分がいちばん好きだし、ありのままの自然な姿だけが本当の自分だとは思っていません。自分の好きな姿でいることが、いちばん自分らしい状態だと感じるから。
――自分らしさや、自己表現の方法がなかなか見つけられない人がいたら、どんなことを伝えたいですか?
やりたいことや夢って、探して見つかるものっていうよりは、自分で決めることなのかなと思います。たとえば子どもの頃に好きだったものとか、今やっていて楽しいこと、わくわくすること……そういうものを思い返して、そこからまず選んでみるとか。僕自身も自分と向き合っていくうちに、メイクやファッションが好きなんだってわかっていって、それが今の仕事につながっています。明日どうなるか分からない時代ですから、「いつかは見つかる」と待っているのではなく、自問自答して決めてみることが近道かもしれません。
もちろん色々な理由があってできないこともあるけれど、悩んでいる時間がもったいない。自分の人生で何を選ぶかは自分次第なので、そこに責任を持って勇気を出せば、自分のしたいことができる瞬間が来るはず。「自己表現しなきゃ」って焦る必要もなくて、自分が生きやすい道を選んで、ストレスなく生きることが大事なんだと思います。
自分を愛することで、自分らしくいられるということを教えてくれたGYUTAEさん。
次回は、何かに“縛られること”から解き放たれるためのヒントをお伺いしていきます。
GYUTAE
1994年12月23日生まれ、広島県出身。YouTubeを中心に活動し、性別や国籍、ジャンルを越えた変身メイクで話題を集めているメイクアップアーティスト。10代から全身脱毛症を患い、髪の毛やまつ毛、眉毛など全身の毛が生えないというハンデを負いながら、メイクを通してコンプレックスと共に生きる方法を発信。その前向きな考えや生き方が同世代を中心に共感を呼んでいる。また、今年3月に幻冬舎より初のエッセイ本『無いならメイクで描けばいい』を発売。
Photo:Yui Fujii
Text:Mayu Sakazaki
Edit:Asako Tanaka,Rei Yanase,
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